| お手紙拝誦いたしました。
詩の雑誌御発刊に就いて、私などまで問題にして下すったのは、寔に辱けなく存じますが、前に私の自費で出した「春と修羅」も、またそれからあと只今まで書きつけてあるものも、これらは到底詩ではありません。
私がこれから、何とかして完成したいと思って居ります、或る心理学的な仕事の仕度に、正統な勉強の許されない間、境遇の許す限り機会のある度毎に、いろいろな条件の下で書き取って置く、ほんの粗硬な心象スケッチでしかありません。私はあの無暴な「春と修羅」に於て、序文の考を主張し、歴史や宗教の位置を全く転換しようと企画し、それを基骨としたさまざまな生活を発表して、誰かに見て貰いたいと、愚かにも考えたのです。あの篇々がいいも悪いもあったものではないのです。
私はあれを宗教家やいろいろの人たちに贈りました。その人たちはどこも見てくれませんでした。春と修養をありがとうという葉書も来て居ます。出版者はその体裁からバックに詩集と書きました。私はびくびくものでした。亦恥かしかったためにブロンズの粉で、その二字をごまかして消したのが沢山あります。辻潤氏尾山氏佐藤惣之助氏が批評して呉れましたが、私はまだ挨拶も礼状も書けないほど恐れ入っています。私はとても文芸だなんということはできません。そして決して私はこんなことを皮肉で云っているのではないことは、お会い下されば、またよく調べて下されば判ります。
そのスケッチ二三篇、どうせ碌でもないものですが、差し上げようかと思いました。そしたらこんどは、どれを出そうかと云うことが大へんわたしの頭を痛くしました。これならひとがどう思うか、ほかの人たちと比較してどうだろうかなどという厭な考がわたしを苦しめます。わたしは本統にそんなに弱いのですから、笑ってもようございます。どうかしばらく私などは構わないでここらにそっと置いて下さい。どうせ家を飛び出したからだですから、どこへ行ってもいい訳ですがいろいろの事情がもうしばらく、或は永久に私をここへ縛りつけます。梅野さんにもお会いして申し上げて置きます。又あなたのお手紙からあなたにお会いしたいと思います。 |